専門深める学校教育を

 
 
  放課後の保健室。パソコンで仕事をしていると、生徒が一人近づいてきてのぞき込んだ。彼は情報科一年生の小林君。普段、保健室へは来たことがない生徒だ。

  「先生、ハッカーに気をつけろし」「やられたことあるの?」「僕なんかウイルスを作っちゃうんだから」「えっ、そんなこと、できるの?」――などと話しているうちに、彼はカバンの中から何冊か本を取りだして「これを全部マスターしたさ」と、パソコンやハッカー 関係の専門書を見せた。「すごいね、感心しちゃう」と言うと、彼は目を輝かせて話し始めた。

  「先生、脳の機能をパソコンにコピーできないかな」「どういうこと?」「人は死ぬと精神はそこで切れてしまう。その精神を別の肉体に張り付けることができ ればなあ」「そうすれば永遠の命を得ることができる」「そういうこと。そして、自分のクローンを作って、そこへ自分の脳のコピーを張り付ければいい」「そ うか、いいわね。早くそのソフトを作ってよ、私が実験台になるから」

  とても面白かったので、このことをアメリカ在住の友人に小林君の写真を添付してメールすると、すぐに返事が送られてきた。

  「その子は天才だ。性格がゆがんでいなければ、親がしっかりしていれば、学校などは続けなくてよい。彼の独学を先鋭化すべきだ。これからの時代に生き残れ るのも、社会が必要としているのも、彼のような人材。彼の発想、思考もよい。彼を月並みの丸い無能人間にしてはならない。彼は先鋭化しなければならない。 倫理をまっとうしながら。彼は一見、釈迦のような顔をしている。彼は何故、その高校にいるか?高校受験勉強しなかったからか?すばらしい。義務教育は終 わった。彼の専門は明確。ほかの授業はよい。今、彼に必要なのは倫理的な社会的なサポートのみではないだろうか…」

  小林君の中学時代は欠席が多く、勉強もしなかった。高校に入ってからはバイトに明け暮れている。本校にはそんな生徒が多数いる。入学しても、学校生活に適 応できず、勉強も部活もしない。中途退学していく者も少なくない。いろいろな才能を持っていても、教育現場で、それを伸ばしていく意志も機会も方法もない のか、と考えさせられる。時代は変わった。頭を切り換えて学校教育のあり方を考えたい。

(2002 年11月掲載)