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失うものも多い携帯電話
「ど
うしたの!その顔」。始業前の保健室で、一年生のS君が顔を腫らして長椅子に座っていた。「おやじに殴られた」。S君の携帯電話料が、今月は七万円にも
なってしまった。先月は三万円で、親からきつく注意を受けたばかりだった。ひどく殴られたうえ、携帯電話は取り上げられたとのこと。S君のような例ばかり
ではない。夜、仲間に呼び出されてけんかに巻き込まれたり、「ワン切り」に引っかかり多額な料金を請求されたり、トラブルが絶えない。
ここ数年で携帯電話が急に普及した。今は高校生のほとんどが持っている。授業中は使用を禁じているが、休み時間や放課後になると、みんな一斉に携帯電話を
いじり始める。歩きながら、お弁当を食べながら、おしゃべりしながら、電話とにらめっこ。その姿はこっけいで何か異様だ。「廊下や道路を歩くとき、携帯電
話を使いながらでないと不安だし、いやだ」と女子生徒が言う。
掃除の時間、保健室に当番の仲良し三人組が、ほうきを片手に、一方の手には携帯電話を持って入ってきた。彼らは並んで椅子に座り、しばらく口もきかず夢中
でメールを打っている。「誰にメールしてるの?」と聞いてみた。「こいつ」と隣を指さす。「俺はこいつ」とまた隣を指さす。「えっ?」とのけぞってしまっ
た。「あのね、聞きたいんだけど。携帯電話がどうしても必要だという理由は何?」「……、緊急なとき便利」「緊
急ってどんなとき?」「……、道で人が倒れているときとか」「人が道で倒れているのを見たことある?」「……」。これが実態だ。
みんなが持っているからと親が買い与え、月平均一万円の使用料を親が払う。どう考えても携帯電話は高校生にとって、高価なおもちゃにほかならない。多くの
大人がそう思っているのに「うちは絶対に使わせない」という親がいなくなっ
てしまった。諸外国のほとんどは高校生には携帯電話を持たせないそうだ。高価な割にはあまりにも失うものが多い携帯電話について、真剣に考えたいものだ。
(2002年8月掲載)
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