難しい肥満治療


 
 
授 業終了のチャイムが鳴り、昼休みになった。「先生、来たよ。」いつものように正太が保健室へ体重測定にやってきた。「95.3キロ、0.3キロの減、順調だね。」彼は卒業するまでに30キロ減量するという目標を立て実行しているのだ。きょう は正太と約束した金曜日の昼休みである。

  正太は小さい頃より太りぎみであった。中学に入って益々太り、高校入学時には100キロを越えてしまった。好きな バスケットボールもやめ、部活動もしていない。自転車通学も辛くなり、とうとう親の車で登校するという生活になってしまった。そんな時、保健室の清掃当番 になった。大きな身体の正太はとても目立つ。ほうきを持って突っ立ているのでなかなか掃除がはかどらない。「ほらほら正太君、ここにゴミがあるでしょ、早 くしなさい。」などと言いながら、そのまま保健室に残し、減量の話しをすすめてみた。

  日本人の肥満も欧米並になりつつあり、学校現場でも健康課題の一つである。肥満の治療は大変難しい。特効薬はないし、環境やライフスタイルが大きく関与し ていることから本人の意志、家族の協力と適切なアドバイザーが必要である。とりわけ肥満の子を持つ親の姿勢には共通したものがある気がする。そこが最も難 しいところだ。毎週正太とやりとりしながら、私はふと昔あった出来事を思い出していた。

  親戚のおばさんが6才になるまるまる太った娘を連れて遊びに来た。その子を見た私の父親はおばさんに向かって「お前は娘を何という姿にしてしまったんだ。 この子を治してから出直してこい。帰れ!」と怒鳴り飛ばした。しかし、一人っ子の彼女はその後も相変わらずすくすく育ち、立派な肥満の大人になってしまっ た。ある日、友人と甲府の町を歩いていた彼女は、急に「うっ」と胸を押さえてうずくまり、そのまま帰らぬ人となってしまった。急性心不全、20才であっ た。

2002年1月掲載)
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