力を発揮しない生徒


 「天は二物を与えず」という諺(ことわざ)がある。一人の人間が多くの才能や資質を備えているということはないという意味だ。しかし、つい最近まで誰が こ んな諺を作ったのかと首を傾げたくなるような現実があった。

  私が普通高校に勤務していた頃のことだ。各学年に一つ習熟度の高いクラス(A組)があった。今こそガリ勉、頭でっかち、偏差値集団などと敬遠されることも 多いようだが、昔はトップクラスと呼ばれ、別格の存在であったように思う。毎年行われる学園祭は文化、芸術、スポーツの祭典、学年やクラス別にその力を競 い合う。A組は合唱コンクール、クラス旗の作成、舞台発表、すべて上位入賞。2日目は体育祭、運動会さながら綱引き、騎馬戦、ムカデ競争、クラス対抗リ レーとA組はトップに立ち総合優勝をしてしまった。他の生徒たちは「仕方がないけど、くやしい」と不満げ。

  A組の健康状況を調べてみた。高校生では永久歯のむし歯を一人平均6本持っている。ところがA組の平均は2.5 本、さらに治療も全員が済ませていた。その他、内科系の疾病もほとんどない。また、不登校や欠席がちの生徒はなく、クラスの半数が3年間皆勤賞であった。 悩み相談で保健室を利用する生徒も少なく、心の健康レベルも高い。

  彼等は才能や資質を備えている上に環境に恵まれた。そして何よりも彼等自身の努力があったからこその結果であった。しかし、最近はこのような生徒がめっき り少なくなってしまった。豊かな才能を持ち、健康なのに力を発揮しようとしない。

  休み時間、1年生らしき2人が保健室に入ってきた。一人は肩幅が広く見るからにスポーツマンタイプだ。「部活は何してるの。」「していない。」「じゃあ、 勉強一筋?」「まさか。」「こいつは中学の時、サッカーで関東大会まで行ったさ。」「すごいね、どうして今しないの?」「別に、面倒だから。」こんな生徒 が我が校に急増している。天は二物どころか一物も与えないのかと思ってしまう。

2002年2月掲載)
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