不思議な魅力放つのに 


 
「先 生、おれやばいよ。親が呼ばれた。オヤジが来るんだって。」和紀がやってきて言った。「何で?」「遅刻が多いから。おれ、オヤジに殺されちまう。」

  和 紀が保健室に来るようになったのは高校2年のはじめ。腹痛頭痛を訴えているが、いたって元気で、しばらく休むと教室へ戻っていく。遅刻が多く、今日も1校 時が 半分過ぎた頃に来室した。「次の休み時間までいさせて」「また寝坊?」「どうしても起きられないんだもん」前夜は中学時代の友人3人とバイクに乗り、コン ビニで店員を脅かした末、警察に追いかけられたという。

 中学時代の和紀は、酒、タバコ、万 引き、盗み、カツアゲ(恐喝)、バイク暴走、何でもしてきた。ガスパン(ガスライターのスペアボンベのガスを鼻からいきおいよく吸い込む)でラリッた勢い でバイ クを盗み、事故を起こして補導された。その時、父親は怒り、母親は泣き続けたが「何で泣いているんだろう」としか思わなかったという。高校に入っても相変 わらずで進級するのも危ない状態だ。

  和紀は、小太りで浅黒く、決してカッコイイとは言えないが、人なつこく、不思議な魅力を持っている。大きな瞳をくりくり動かしながら、熱っぽく人生論など を 語り出すと、ついつい引き込まれる。保健室の落書きノートには、彼からは想像できないようなかっこいい詩をさらりと書く。「君は、やれば出来るんじゃない の」と聞くと、「いつでもやれば出来ると思うから、いつもしない。そうするとやっぱり赤点だ」と言う。

  数日後、和紀はまた遅刻してきた。学校に呼ばれた父親からは「卒業さえしてくれれば何も言わない」と言われたという。しかし、父親はすぐに暴力をふるう人 のようだ。家族とのけんかや口論が多い。母親はすぐ父親に言いつける。そのたびに殴られ、蹴られている。遅刻の件でも、父親は朝6時に起こしにかかる。寝 入っている彼の腹を思い切り蹴り上げるのだそうだ。「おれ、家に帰りたくないよ」とつぶやく和紀。その後もやっぱり遅刻が多い。                          

(1999 年1月掲載)
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