2003年

浅野泉        

 2003 年は私にとって特別の年になりました。その最大の出来事は再婚したことです。結婚については常々考えていたことがあります。「結婚は最も愛し合える人、気 の合う人と一緒になるということではなく、一生を約束できる人と一緒になること」だということです。幸運にも、そのように思える相手に出会え、多難な年を 何とか無事に乗り越えたと思っています。また、夫婦は戦友に似ていると思います。戦友は一番の親友を選んだわけではありません。たまたま巡り合った人で す。しかし命をかけて協力し た人です。そのことで最近もそれを再確認する逸話を聞きました。見合い結婚をした夫婦の話です。妻が夫をあまり好きではなかったらしい。ある日その妻が病 気になってしまった。その時の夫の献身的な介抱を受けた妻は、自分はなんて情けない人間だったのだと感じ、一生この人を大事にしていこうと決意したとい うことです。

 また暮れ近く なって大きいアクシデントがありました。雪の日、子供と一緒にソリ遊びをしていてケガをし、救急車で病院に運ばれたことです。この歳まで入院の経験などな かったので焦りましたが、大 事には至らず幸いでした。しかし肋骨と肺の損傷のためこの完全回復にはかなり時間がかかりそうです。

そして今年はイラクで日本人の外交官が二人殺害される事件が起きました。偶然その一 人が知人の友人であることを知りました。

また北朝鮮に拉致された従兄弟のことについて人と話す機会が多くありました。


ここからは世界情勢問題の話になります。 関心のある方は続けてお読みくださ い。


 ところで、このイラクと北 朝鮮について、多分最も関係している人間、ジョージWブッシュ
米大統領の話をしたいと思います。いわゆる911 のテロ事件以後、彼が世界に対して、今後アメリカは外国を敵か味方かの二分法しか認めないと発言したことは多くの人が知っているでしょう。しかしそれ以 上に大きな意味を持つことで必ずしも多くの人が認識していないことがあります。それは911以後、彼が自分を支持する人は愛国者であり、自分を支持しない 人は非国民であるという態度をとっていることです。このことは前者よりもずっと大きな影響を世界に及ぼしています。

イ ラク戦争の話に移りましょう。ブッシュ政権はイラク攻撃の理由に、大量殺戮兵器(WMD)の問題とイラクのアルカイダとのつながりの二つを上げました。と ころが今になってみると、その二つとも否定されているのです。それらが否定されたことに驚いている人は多いようですが、実はずっと以前から国務省やCIA 等の政府機関によって否定されていたことなのです。新聞等をよく見ている人ならば、それは前からわかっていたことです。私が驚いたのは、否定されているに もかかわらず、大統領がそのことを繰り返したことと、マスコミがそれを指摘しなかったことです。現在の反対党である民主党も例外では ありませんでした。大部分の民主党議員も「反対だけれども、しかし」とか「賛成だけれども、しかし」というような、条件付賛成派でした。そこには上記で触 れた非国民の問題があります。無名だったディーン民主党大統領候補が躍進してきたのも、彼以前にはブッシュの方針に替わる選択肢が提示されてなかったから で しょう。昔は多数派だった中間派は位置を失いました。

ところで大統領が、明確な嘘を繰り返したので、イラク攻撃のアメリカの意図より、私 はブッシュ氏の個人的な意図は何かと考えました。彼の生い立ち等を考えたのです。彼は良家の風来坊として生きてきました。若い時はまともに働いたことも少 なかったと思います。ところでやっと中年になって宗教の力で立ち直ったところがあります。キリスト教原理主義者の彼は、911以 後、自分は神に選ばれていると思っているように思います。また彼はずっと石油関係の仕事の関係者に囲まれて育ってきたという経歴があります。それらを考え ると、元々あまり政治に関心も薄く、ビジネス関係者に囲まれて、そして神がかりになった人間の実態が明らかになってきます。イラク攻撃の影の理由を確認し てみましょう。大統領の十字軍的な神がかりがあります。それに石油等ビジネス関係者の利権です。また大統領の政治的な無知を利用したいわゆるネオ · コンサーバテブ=新保守主義者(ネオコン)の影響があります。

さてここでネオコンの理論を推測してみましょう。石油利権屋は別にしても、それが地 政学的に世界の重要な戦略物資であることは皆が理解していると思います。だから、ロシアが大石油輸出国として台頭してきていることや、中国が大石油輸入国 として台頭してきていること、またアフガニスタンや旧ソ連中央アジア石油問題の存在を言うだけにして、石油の話は省きます。核兵器の問題の話をしましょ う。イラクが核等を持っていないことを、ブッシュ政権は知っていたはずです。核でより危険だと思われる国は、核所有で国民により反米気運の高く、それにオ サマビンラディンの潜伏していると思われるパキスタン。核を所有していると自己主張しているあの北朝鮮。それにイラクより大国のイラン等いくつかありま す。ここで結論に飛べば、逆説的ですが、イラクは核を持っていなかったからこそ、アメリカに攻撃されたとも言えます。もしイラクが核をほんとうに持ってい れば、あのようなイラク攻撃はなかったでしょう。他国を威嚇する必要があって比較的に楽なイラクが選ばれたわけです。またこれはヒロシマ以後の世界がかか える問題、つまりアメリカだけが大量殺戮兵器を実際に使った国であり、それで世界を取り仕切ってきたという現実があります。

ネオコンの次の理論に触れましょう。色々な意味でアメリカは中東に「基地」が必要で す。現在それは、イスラエルとアラブ+イスラム諸国の中では、主にサウジアラビアが担っています。ところが911の テロリストのほとんがサウジアラビア出身者であったことからもわかるように、サウジアラビアには反米気運が高まっています。非民主的なサウジの王制は、元 々は米石油利権との取引で支えられてきたものですが、イランのそれが結局は崩れてしまったように、いつ崩れるかわからない現状があります。サウジがイスラ ム教原理主義者の国になってしまったりした場合を想定すると、米はイラクを取らざるを得ないとネオコンは考えたでしょう。

ところでネオコン達は、イラクの大量殺戮兵器とテロリストとの関係の二つともが否定 されたことで、戦争の目的は実は中東での民主主義の普及だったのだと、慌てて言い換えています。でもこの理論にも実は無理があります。実態は、中東の国々 の政府がほんとうに民意を反映していれば、反米的と言えます。それを無理して、政府を親米にしている現状は、パキスタンやエジプト等を見ても明らかです。 それに話は飛ぶかもしれませんが、イラクのサダム · フセインにしろ、ビンラディン、アルカイダにしても、実はその時々の都合でアメリカ が育ててきたのだという経緯があります。またソ連撤退以後のアフガニスタンがそうであったように、サダム以後のイラクもテロリストの養成所のようになって しまいました。

話が長くなるので深入りはしませんが、だからと言って私は、アメリカが全ての原因だ とも、アメリカが悪の根源だとも思っていません。アメリカがなければ、中東が民主的で幸福かと言うと、そう話は単純ではないでしょう。

さてここで、世界の構造の問題について考えてみましょう。世界の構造については、ア メリカの帝国性の問題に絞ります。アメリカの帝国性の問題は三つのレベルで考えることができます。

第一は一般論の問題です。それはアメリカの巨大性の問題です。例えばアメリカ一国の 軍事費は、世界のアメリカ以外国全ての軍事費の合計したものと同じ位の大きさになっています。アメリカの世界における存在があまりに大きいので、アメリカ がどんなに民主的で良い国であったとしても、そのアメリカの民主主義に参加できない他国の人々が、アメリカの影響をもろにかぶってしまうという問題があり ます。この問題は、誰が大統領であろうと存在する、近代国内民主主義の構造的な問題です。民主帝国主義の問題です。

またこの構造的な問題は、民主と独立の問題から考えることもできます。例えば江戸幕 府が非民主的な政権だといって、日本人がアメリカに征服されることを望むかというような問題です。また逆に、アメリカに征服されるのが嫌だといって、徳川 政権で良いのか、というような問題です。

第二の帝国性の問題に移りましょう。いわゆる米ネオコンの人達は、古代ギリシャのア レクサンダー大王の継承者であることを任じているようです。アレクサンダーが力により文明を普及させたように、アメリカも「文明」(科学技術の他にも、自 由とか民主とか)、普及させることに使命感を感じているようです。その意味で最近はアメリカがいわゆるユニタリスト(一方的主義者ともでも訳しておきま しょうか)であることが批判の対象になっていますが、第二次大戦後、実際に世界を取り仕切ってきたのはアメリカであったという実情があります。アメリカは 良くも悪くも身体をはって人類をリードしてきました。それは理論や形式的な討議等で装っても、たいていのことは結局アメリカが決めてきました。昨今のユニ タリストは、建前を脱いで、露骨になりましたが、本質的には前と変わっていない、と思います。ブッシュ的なユニタリストがいなければそれで良いのだ、とい う考えは皮相的です。

第三の帝国性の問題は上記で触れたブッシュ達の問題です。専門家等が議論したりする 場合に、以上の三つの帝国性の問題が明確に整理されることなく、単純な支持や批判になっていることは、残念です。

最後に日本の問題に簡単に触れましょう。例えば日本には中東の石油の問題、北朝鮮の 核の問題があります。日本はそのどちらにも、自己解決能力がないだけでなく、関心さえもないように、振舞っています。その状況下で小泉首相の対応は、アメ リカに従う以外に選択しはないでしょう。しかし単に対米従属を続けるのではなく、自己管理の能力を養成する必死の努力が必要です。また一方的アメリカに従 うのではなく、ある程度の取引は可能だと思います。イラクのことに関しては言えば、「今からでも遅くないから、イラク問題を国連に移す」と説得することで す。一方北朝鮮のことに関して言えば、日本は拉致問題、韓国は共存問題、アメリカは核問題、等々、各国別の国益の呪縛に陥ることなく、例えば飢えてる数百 万の北朝鮮の人民の問題に焦点を合わせることで、解決の糸口に繋がることを示唆することではないでしょうか。

さ てイラクで殉死した外交官の葬儀で小泉首相は涙を流したとのことです。彼の軍事改革については、岸や福田の流れをくむ政治家として、日本を「普通の国」に したいと考えているとは思いますが、肝心の世界戦略を考えている余裕はないように見えます。自分の決断が外交官の死を招いたということを理解している彼と して、泣くのは当然だと思います。イラクで死んだ日本の外交官は身体を張っていたでしょう。今後もイラクでの日本人の死が予想される現在、自分の社会のこ とについてより真剣に考える日本人が少しでも増えれば、と願ってやみません。

最 後に最初に書き始めた自分のことに戻ります。私は政治とは関係のない仕事を生業としています。ただ自分のできる範囲で少しでも、それに関わり続けてきた、 続けていこうとしています。今自分のできることは何かと考えました。今は、ブッシュの排除のための努力がそれだと思っています。それは、ブッシュが好きか 嫌か等という問題ではありません。人類史の流れの中で、流されるだけでなく、少しでも主体的にかかわることが、生きることだと信じているからです。

浅野泉、2003年末日、ワシントンDC郊外にて

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